むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

ムラのいのち・・・4

f:id:munosan:20150209121511j:plain 管理放棄を未然に防ぐには、所有者の管理責任を問う方法がある。

 これに関しては様々な方法が議論されている。「耕作放棄にともなう環境負荷の除去という所有者責務」を提起し、所有者による負担の必要性を説く。

 また、林地については「林業人は“森林は林業によって守られてきた”という考えを改める必要があろう」としたうえで「自然破壊的に森林を取り扱う所有者には環境費用の“汚染者負担の原則”のようなものを適用して、所有権の乱用を戒めるべきであろう」と諸説議論されている。

 現行の制度に所有者責任を問うものがないわけではない。農地には農業経営基盤強化促進法があり、林地には森林法がある。

 前者には耕作放棄地への対処が明記されている。すなわち、「遊休農地及び遊休農地となるおそれがある農地並びにこれらの農地のうち農業上の利用の増進を図る必要があるもの」を要活用農地と定義し(6条)、この利用を促す仕組みが定められている。

 要活用農地については、まず、地域の農業委員会が農業利用の増進を指導する(27条)。この指導に所有者が従わないときには、市長がこれを周辺の農業に障害を与える特定遊休地に指定し、所有者等に通知する。所有者等は、これらに対する利用計画を届けなければならない。

 提出された計画が不十分な場合には、市長は新たな利用計画を勧告し、それに従わないときには利用権設定による農地の賃借を所有者等と協議できる。

 この協議が調わない場合には、県知事による勧告、さらには利用権設定の裁定を行う制度が整えられている。この裁定は、いわば強制的に農地を賃貸借させる規定であり、最終段階では、所有者の責任を厳しく問う仕組みとなっている。

 森林法では要活用農地に相当するものとして要間伐森林が定義されている。要間伐森林とは、地域の森林計画の対象となっている民有林のうち、「間伐又は保育が適正に実施されていない森林であってこれらを早急に実施する必要のある森林」をさす(森林法10条)。

 要間伐森林に対しては、まず市長が説明会や広報によって指導を行うが、それでも間伐等が進まないときには適正な森林施業を勧告できる。勧告が受け入れられない場合には、市長は所有者等に対して間伐等の委託(権利移転等)を勧告する。所有者がこれにも従わないときには、県知事による調停、その受諾勧告、さらには分収育林契約の裁定等の措置が準備されている。

 いずれの制度も、私有権をできるだけ侵害しないための慎重な配慮がみられる。また、指導に始まり、県知事による強制的な執行に至るまでの措置を多段階に組み込んでいる点でも共通しており、周到な制度設計がなされているといえる。

いずれの制度もこれまでのところ実効性をもっていない。

 農業経営基盤法では1998年から2003年までの6年間に指導がなされた耕作放棄地は全体の2%に留まり、利用権設定の協議や裁定は2007年末までのところでは皆無とされる。

 森林法についても同様である。要間伐森林の総面積は2006年度で4万9000haとされる。これは地域森林計画(民有林)の総面積259万haの2%弱に相当するが、とても現実を反映しているとは思えない。

 要間伐森林は管理が「間伐の標準的な方法」に従って実施されていない森林と定義されており、森林の現況からみてそうした荒廃林が全体の2%未満の水準に収まるはずはないからである。また、勧告や裁定を行った例は皆無である。

制度が整備されていながら、管理責任の実質的な引き上げができないのはなぜであろうか?

 原因にひとつには、引き上げに関する合意形成ができていないことがあげられる。

 利用権設定や分収育林の裁定には前段の手続きとして市長の勧告が必要とされるが、これには自治体内の合意が不可欠であり、超えがたい壁となっている。

荒廃した農林地の過半についてはその生産条件の劣悪さから管理を請け負う主体が見つからないという状況が稀ではないのである。農林地の受け手がいなければ、勧告や裁定を通じた権利移転はありえない。

 責任の水準の引き上げについては「利害関係者の長期にわたる葛藤」のすえに成立するとして、その難しさを指摘している。

 日本の農政においては、従来から農業=環境保全的という発想が根強い。そのため、経営者が守るべき環境の水準(基準点)を引き上げることについて十分な合意形成がなされてきたとは言い難い。

 基準点の引き上げは、今後の中山間地域の国土保全のためだけでなく、それを支える国民の合意を得るためにも避けて通れない大きな課題である。具体化に向けての検討は急務である。