むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

農地は農家のココロである

戦後の農地法はどのようにつくられたか。

農地改革は、他者労働(小作人)の成果を地主が領有する経済秩序を、労働の成果が労働の主体に帰属する経済秩序へと転換させた。この転換に伴い農地法は、旧い経済秩序を支えた地主的土地所有権を廃棄し、新しい農村経済秩序を支える農民的農地所有権を創出した」

 農地は耕すものが所有するという「自作農主義」を明確にしたのが農地法であり、当初、都府県では平均3haの経営規模が上限とされた。それ以上の大面積では自作農ではなくなると考えられたのである。

近頃では「4ha以上でないと補助の対象にしない」などと小農切り捨ての話ばかりだが、当時は、面積拡大に歯止めをかけたのである。

 その後この上限は撤廃され、農作業常時従事義務に置き換わり(農地耕作者主義)、さらには「集落営農」など農地の地域的利用も進んでいる。

 自作農主義やその後の借地による規模拡大経営の進展に対応した農地耕作者主義の精神は今日まで受け継がれている。

 この「経営と労働が一体となっている者にのみ、農地の権利が帰属する」という原理こそ、持続可能な農村秩序と、自然との持続的関係性を支えている。

「自然と人間との物質代謝は、自己を疎外することなしに自己の対象化がつねに自己獲得となる活動過程として把握され、自然との持続的関係性が意識的に追求されることになる」

 難解な表現であるが、農家のありようを示したものである。

農家は田畑や土、作物に働きかけ、自らの収穫物を得るという労働をとおして、作物や田畑や地域自然に学び、これを持続的に維持していく。この関係性のなかで農地は守られ、引き継がれていく。

 だから、農地を商品一般に対する所有権と同じにしようとする農地法改廃論は、「持続可能な農村秩序の展望を閉ざすもの」なのである。

 農地法とその精神は「持続可能社会への転換を主導する所有権」として、その価値は今後もますます高まり、大企業を中心とする株式会社に農地所有権を与えようとする昨今の動向に重大な警告を発している。

わかりやすく言えば、農地はモノであると同時に、農家のココロ(精神)である。