むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

小さな農家は暮らしをつくり、文化を育んできた。

 日本は小さい農家が大部分を占めてきた。どうして大きな農家につくりかえなければならないのだろう。理由は簡単である。

 小さくては儲からないからである。農業を一般産業と同じように儲かるようにしないと国際競争に勝てない。補助金助成金をこれ以上出すことは財政上困難だから、儲かる可能性のある大きな経営に限定して補助金を出す。

 小さい農家がなくなることが、いいことなのか。

小さい農地を分けあって、山や川や森や林を利用して田畑を耕し、多くの農家が協力して暮らしをつくってきたのが、日本の農業である。農業は食料生産産業だけではない。

 食料生産は農業の基本的役割でもある。しかし、他の産業とは異なり、食料だけを生産しているのではない。「暮らし」をつくってきた。

他産業とまったく異なる点は、他産業は製品をつくり売るだけで「暮らし」をつくることはしない。農家は田畑を耕し、食料をつくってきた。森・林の草を刈って堆肥をつくる。山の木を切り家もつくってきた。

 力を合わせて木を育て、森や里山を育んできた。野山の恵みや農産物を加工・貯蔵しながら助け合って暮らし、村祭りや年中行事を行ない、むらの「文化」を育んできた。

 個性の大本は自然にある。その自然に人間が働きかけ、働きかけ返されることによって、それぞれの地域にふさわしい個性的な暮らしを創ってきたのである。それが日本の農業であり、日本の農家・農村である。