むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

ニート支援はまだまだ微力 宮本みち子放送大学教授に聞く 【4】

 -- 「こういう仕事もあるのか」と体験するのはあるかもしれないが、それだけではなくて社会全体も合わせてということですね。

 宮本 仕事に就けるだけではなく、ふるさとの姿とかそういうものを実感を持って理解していくプロセスを含め、地元の中でどういう人たちがどういうふうに働いているかというようなこととちゃんと結び合わさって理解されると大きいと思います。

 -- 高齢者が多ければそれをサポートする仕事がいかに大切であり社会的価値があるか。それが社会を支えるということがあるだろうし、そういったところも分かるような形を示さなくてはいけない。

宮本 自分が住んでいる所は自然が美しいとか、人の心がゆったりとしていていいというようなことと、そこで暮らしている人たちの姿を通しながら、「自分は将来こんな仕事だったらやってみたい」と思ったときに本当に自立的な若者が育つような感じがあります。

 -- インターンシップとか導入されてきています。しかし、隔離とまではいかないにしても、ある意味でクリーンルームの中で仕事を体験しているような感じがするんですが。

 宮本 単発的なインターンシップですよ。 先進国では、若者をどう自立させるかという課題で、どこの国でもインターンシップ、職場体験を導入していますが、見ていると毎年やっています。

 例えば、中学生ぐらいから本格的にそういうステップが始まるとすると、13歳で1週間、14歳で1週間というふうに。高校3年生では、進学しない人には夏休みの1カ月とか。職業意識はそんな簡単に身に付くものではないです。

 だから、継続的に、年齢に応じてステップ・バイ・ステップで職業の世界と実社会を学ばせていく。

 特定の職業だけではなく、もっと広く”ふるさとを教えていく”ようなことと絡めながら年齢ごとに教えていくやり方も必要だと思います。場合によっては、メニューをたくさん用意しておいて夏休みの1カ月間に希望する職業を体験するということも必要だと思います。

学校教育に限定されない教育のあり方をどんどんつくっていかなくてはいけない。職業の世界を教えていくというのは、そういうものかなと思うんです。

 -- 話をまとめますと、まず一つ大きな問題は、ポスト工業化社会になってきている中で社会システムが変わってきている。その中で、特に家族、家庭の役割が非常に大事だということ。

 それともう一つは、地域社会も当然そういう機会をつくっていかなくてはいけない。それは職業だけの問題ではない、体験だけの問題ではないんだという意識を持たなくてはいけないんですね。

宮本 教育をそういうふうに抜本的に変えて、もっと地域と結び付いたものにしていくとすると、今は地域の受け皿が決定的に足りない状態なんです。

若い人たちを育てていくための地域の受け皿づくりが重要なんですが、それは公的な機関だけでやれることではない。それこそ官民一体という言葉ではないですが、そういう職場体験とか地域活動で若者を育てるようなNPOや民間団体が少しずつ出てきており、もっと意識的に育てていくということが大切です。

 あとは、産業界が、次代を養成するためにもっと社会貢献できる余地があると思います。

 学校段階の受け皿ももちろんそうなんですが、次は学校を卒業した後のフリーターニート層の問題です。日本は訓練制度が未発達な社会で、学校を卒業したら企業が養成していたが、そこからはずれた人の教育訓練というのがまったくない社会なので、現在それをどうやってつくるかという課題があります。

 手法としては同じだと思う。官民一体の、学校にも仕事場にも所属していない非常に不安定な状態にある人を再教育するような機関をつくるということです。

 -- 一つの支援システムですね。そういったものは全国的に生まれてきていますか。

 宮本 かなり全国的な動きがありまして、NPOなんかがやっているんです。「ニート」という言葉が出てきたものだから、ニートに対する支援活動みたいなのが始まっているんです。まだまだ微力で、金も人も少ない。それから、ニートや困難を抱えている人たちがどこにいるかがはっきり分からない。親が丸抱え状態なんです。

 これもやっぱり日本的な親子関係から来るものなんですが、すべての責任を親がとっているようなところがあって、ひきこもりと似たところがあります。

ひきこもりやニート、それから就職した後離職して行き場がない。親は本当に悩んでいるが、どうしていいか分からない。どこへ相談したらいいか分からないというのも一つです。
なんとなく世間体が悪いというような形で、家の中に隠れているんです。

 それを隠さずにもっとオープンにしようということがありますが、オープンにしたとしても受け皿が本当にあるかといったら、まだ非常に足りないんです。

 そこをどうやってつくっていくのかという問題で、今動き始めているところです。国としては、通称ジョブカフェだとかヤングジョブスポットとかですね。でもジョブカフェも、まだまだ足りない。

 それに、あれは就職を希望して来所したらサポートする駆け込み寺のようなところがある。本当は来所しない人が一番問題なんですが、その所在さえはっきりしていないというのが実情です。