むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

「三十人の読者」

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 「野口冨士男文庫17」(越谷市立図書館発行)の冊子が届いた。亡くなって20年たっても、こうして顕彰されている作家は、幸せである。されるほうも、するほうも、並大抵の努力だろう。

 今号には、「群像」で野口センセイを担当されていた天野敬子さんが人柄、晩年のようすを語っている。拾い読みしてみる。

 1980年から亡くなられる13年間担当し、文壇とは、文学とは、私小説とは、を学んだという。

 最初に「いただいた原稿」は、『いま道のべに』のなかの五篇目「狐ー大塚」の章だった。原稿は1マスに2文字ずつ書いてある。行数計算までしてあり、原稿用紙の冒頭に400字換算で何枚になるか明記されていた。

 酒が飲めない、というのも意外だった。魚も駄目。

書く覚悟で驚いたのが、「ほんとうに理解力をもつ三十人の読者を対象にして書けばいいのだと、私は信じる。真に怖ろしいのは、そういう三十人の読者に相違ない」と。

 名作「ぶっちぎり」は、20枚にみたない短編ながら、「金ぴかの花柳小説」の絶品と後述する。

 富本憲吉さんの装画が箱にほどこされている『しあわせ』についての逸話も、野口センセイらしい。

 いつ読んでも、背筋がのびる本だ。