むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

年の初めは芥川喜好さんの『時の余白に』

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 名うての達文家。新刊がでるたびに、サインをおねだりをしている。

 文章の透明度がたかい。詩人の心をもつ。

 おおぎょうな作為がない。

 作品、作家の紹介という仕事は、第一級の困難さをともなう。紹介者が不適任なばかりに、せっかくのすばらしい作品が光を失せ、見捨てられるというケースはあまたある。

 ほめあげて、ほめ殺しにしてしまうことも。

 紹介者は紹介すべき対象作品に寄り添い、対象の発する信号にも虚心に耳を澄ませ、そこからぐっとその絵画、その画家の内懐に分け入り、勘どころをいっきょにつかみだして披歴する必要がある。

 芥川さんは紹介者に徹するため、自分の文章のなかで極力みずからの独自性と個性を消し去る強さをもつ。可能なかぎり取材をつみかさねる。

 だれもが気づかなかった深みを見出す。
 
 顕(あら)わすよりも、隠すほうが難しい。

 ものの中心付近は分厚い保護膜につつまれ、腐っていたりするが、周辺部は吹きさらし、風通しもよい。

 芥川さんのことばを借りれば「そこからものを眺めれば、見通しもいい。人の動きもよく見える。身を置く場として最高」となる。

 年頭に取り出して読む本だ。