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むらの幸福論

暮らしのちいさなところに眼をむける。

民藝に生きる陶工

 「伝統が重荷になってくるのはこれからでしょうが、自分が生かせるこんな素晴らしい仕事はないでしょうね」
 江戸期から連綿と受け継がれている日本でも有数の民窯である鳥取県鳥取市河原町の牛ノ戸焼。

 「しきたりは守っていかなければならない。でも新たな価値を創り出すことも課せられているのが伝統窯です」
 素焼きの器に釉薬をかけながら、言葉少なに当主の小林孝男さんは訥々と語る。

 福島県白河市の生まれ。東京で建築設備の設計士として働いていた。友人二人と山陰の焼き物めぐりをしていたおり、立ち寄った牛ノ戸窯で”五郎八茶碗”という元旦に神棚のお供えにつかう茶碗を手に取る。偶然、巡り合ったこの器が、大きく人生を変えることになる。

 「どことなくアカ抜けした感じが気に入り」東京に持ち帰る。もともと手仕事は好きだった。企業の歯車の一部になるよりは、と一念発起して会社を辞め、翌年、牛ノ戸を訪ねた。二十九歳のときである。
 まったくの素人が、伝統窯の世界に飛び込んだのである。

 「焼き物が好きとはいえ、こちらに来たときは弟子や職人が六人もいてきつかったです。とはいえ、家庭内仕事ですから和やかにしないと、たちまち作業に影響をきたします。相互扶助の精神が生かされていました。お父さん(五代目・栄一さん)も、失敗が身につくからという主義でした」

 どこでも順応できる性格で生活、人間関係にもスンナリと溶け込む。閉鎖的と称される鳥取の人柄も、「言葉のコンプレックスがあり、他人と喋りたがらない東北人と違い、違和感はなかった」と振り返る。

 「わたしは作家ではなく陶工で、銘も入れていません。足るを知る生き方でしょうか。日常使って喜んでもらえることが至福なんです」
 職人としての矜持で、誇りにさえしているそうだ。

 「何万、何十万個作っても、その度が初めて。白、黒、緑の三種を平等にするためのかくはんや釉薬がけは神経を使い、緊張します。間に合わせで急いで作ると、かならず悪い結果が出ます。目先の能率は追いません」

 作陶歴二十四年。伝統のワクに固執することなく、厳しい意見も聞き”モダンさ”を射程に入れた作品を目指すことにしている。

 作品の特徴は、焼くと締まる堅牢(けんろう)な土にある。皿、コーヒーカップ、徳利、湯のみ、汁茶碗、急須などの食卓品。抹茶茶碗、花びん、水指し、建水、茶入れ、菓子鉢などの茶花用品。ほかに水滴、香合などで、磁器並みの高温で焼成され丈夫、長持ちする生活用として重宝されている。

 窯元周辺から採掘した陶土は、白く、硬く、キメ細かい。乾燥させ水簸(すいひ)-おろに入れ一週間おき、土盛り鉢に入れて粘土状の使える程度に乾燥させるー足で踏み練る-ろくろ成形ーさらに手で三00回練る-後台をけずるー乾燥させて素焼-釉がけ、絵付け-四週間近くかけ窯詰めー露だき二日間、本だきは1300度で一昼夜あまり焼成-三、四日かけて冷やし窯出しをする。

 徹底した土づくりから産み出される作品は、機能的で豊かな造形性、高温で発色した美しい釉薬と絵づけに人気の秘密がある。釉薬は黒、緑、灰釉に、飴、海鼠、石灰、呉須、辰砂があり、伝統的な鉄絵と白絵の文様による梅、芦雁など描かれている。