「むらおさめ」の議論では“ポスト限界集落”の問題のひとつとして農林地、家屋の管理体制の確立、すなわち、財産の位置を明確にする「棚卸し」が必要であると指摘されている。
「棚卸し」は次世代が山村の資産を引き継ぐうえで極めて重要であるが、その実施は年々困難さを増している。所有者の域外流出が急速に進んでいるからである。
大豊町では、2008年度の町内の土地を所有する者のうち、すでに40%が町外所有者である。また、農林業サンセスによると、町内の私有林面積22690haの39%が町外者によって所有されている。
問題は相続の未登記によってさらに深刻さを増す。現在、中山間地域では相続登記をしない農林地が広がりつつある。
原因は農林地の経済的な価値が登記費用や手続きの煩雑さに比べて低すぎることにある。
所有者が他出した状態で、相続の登記がされなくなると登記簿には故人の氏名と住所が記載される。こうなると、子ども世代が他出したあとで誰が土地利用を決定するのかを判断することは難しくなる。
他方、域外の所有者からみると、集落との繋がりが希薄化するとともに集落の情報は著しく減少するのである。土地の管理を放棄すれば周辺の環境に悪影響を及ぼす認識は薄れ、集落における起業や経営規模の拡大などのビジネスチャンスに関わる情報も得難くなる。
所有者にとって中山間地域の所有地は価値のない小片の農地や林地に過ぎなくなる。
相続登記がなされない場合には、法定相続人であるという意識する危うくなる。結局、少なからぬ域外所有者にとって、山間地域の土地は関心のない資産になってしまう。
所有はしているものの、管理の方法がわからず、利用に関する情報も得られない。こうした状況では所有権が執行される可能性は低く、形骸化する。